目に見えることだけが真実ではないことは重々承知しているものの、実際目にすると皆目見当もつかない。
ありがた迷惑って言葉があるように
100%の善意でも迷惑になってしまうことがある。
高校生の時、部活に行った帰りの出来事。
他校との練習試合の帰り、駅のベンチに座って談笑していた。
試合が終わった後なので多少疲れていた。
おにぎりで小腹を満たしながら
他愛もない会話を友達としていた。
駅ってやっぱりいろんな人が行きかう所で
談笑の間でもたくさんの人が改札から出入りしていた。
その人混みから外れて、ふたりの老人が近寄ってきた。
他にも空いているベンチはあるのになんでこっちに来るんだろう?
「こんにちは」
老人はにこやかに話しかけてきた。
たくさんの人達がいるなかで、わざわざ話しかけてくるなんて100%不審者だ。
とまどいながら挨拶を返す。
老人にカツアゲされるなんてごめんだぞ。
老人はベンチの前でかがみ私たちに目線を合わせてくる。
「君たちスポーツとかやってるの?」
敵意はなさそうだ。50%不審者っぽい。
練習試合の帰りであることを告げると、続いて老人たちは言った。
「それはご苦労様だね。私たちはもう走ったりするのもきついからうらやましいよ」
ただの世間話をしに来た近所の老人たちだったか。0%不審者だ。
警戒心を解いた私たちは二人の老人に尋ねた。
「お二人はお散歩でこの辺り歩いていたんですか?」
「私たちは集会の帰りでね。帰り道を歩いていたら君たちを見かけて声をかけたんだよ」
集会・・・?
「そういえば君たちは部活帰りなんだよね?良かったら疲れを取ってあげるよ。」
疲れをとる・・・?
100%不審者に跳ね上がった。
老人の一人が袖をまくり上げ、私の膝に手を添える。
怪しすぎて笑いそうになる口角を抑え様子を見守る。
まさか手からビームが出て膝が吹き飛ぶことはあるまい。
「ほらだんだん膝があったかくなって来たでしょう?」
「この方はすごいパワーを持っているのよ」
二人とも真剣に私の膝に力を与えているようだ。
感性が欠如した私たちではその感動は味わえず
ただただ見守るしか術はなかった。
「よし。どうだい足が軽くなっただろう」
満足げな老人を前にして、私は首を縦に振るしかなかった。
二人の老人はそのまま役目を終えると、その場から立ち去って行った。
狐に包まれたような気持ちになった私たちはおにぎりをほお張った。
このおにぎりも老人の手によって美味しさが増しているそうだ。
にこやかに近づき、無償でパワーを授けてくれた老人たち。
100%善意、0%迷惑。
有難くも迷惑でもない出来事だった。
家に帰るころには、すっかり足に筋肉痛を迎えていた。